3Dモデリング業界で活躍するクリエイターから学ぶイベント「3Dスクランブル」とは?

ゲーム・エンターテインメント事業部(SGE)では、様々なクリエイター向けのイベントを定期的に行っています。今回は、著名モデラーである、森田 悠揮氏、TELYUKA(テルユカ)、クレメンス・ベルガー(Clemens Berger)氏をお呼びして、3Dの知見や交流を深める「3Dスクランブル」を開催いたしました。登壇内容や参加者からのQ&Aの一部を紹介しつつ、イベントの様子をお届けいたします。

登壇内容の紹介

【LT】CHAPTER : 01 / 森田 悠揮氏

<プロフィール>
美術作家・デジタルアーティスト。立教大学を卒業後、フリーランスのモデラーとしてキャリアをスタートさせ、その後、キャラクターデザイナーアーティストとして映画、広告、ゲームなど様々な媒体で商業活動をしている。2019年には、作家活動もスタートさせ立体作品を中心に作品制作をしており、2021年には、ニューヨークのメトロポリタン美術館、パリのルーブル美術館のアートフェアに参加や、原宿で国内初個展の開催、2022年には、NFT化したデジタルアートを主軸とした個展など様々な領域で表現を追求している。

森田氏の登壇では、主にご自身が制作で携わってきた「デジタルアーティストとしての作品」「キャラクターデザインとしての作品」「美術作家としての作品」の3つの軸でつくった作品についてお話をしていただきました。

デジタルアーティストとしてつくった作品の紹介では、NFT化したデジタルアートを主軸にした個展の動画作品について紹介。キャラクターデザインの作品では、クリチャーデザインなどを紹介し「クライアントワークでご依頼をいただくことも多いです。企業の方々は、このような作品で僕をご存知いただいてるのかなと思います。」と振り返りました。

また、美術作家としての作品では、デジタルアーティスト、キャラクターデザインとは異なるテイストでつくられた造形物を紹介し「デジタル上で実現できることが、フィジカルでは再現できないといった制約がある中で、自分なりの作家性やフィルターを分厚くしていきたい。」と今後について話しました。

参加者からの質問コーナーでは「森田さんの作品は、オリジナリティが高いものが多いと思うのですが、どこからインスピレーションを受けていますか?」といった質問が。「インスピレーションはどうなんですかね…(笑)」と答えに悩みながらも「直感的に脳内に降ってきたものを、紙に描いて、いい形になったと思ったら、実際につくっていく。基本的にこの3工程で作品づくりをしています。」と回答。「オリジナルの活動における作家性で、大事にしていることはありますか?」といった質問には「正直、自分の色がでているのかわからないのですが、作品には好きなものを詰め込んでいます。明確に『自分の色をだそう』と思ってつくるよりも、好きなものを集めて、自分のフィルターを通して、アウトプットしているところが自然とそうなっているのかなと思います。」とお話していました。

【LT】CHAPTER : 02 / TELYUKA

<プロフィール>
1998年頃CG制作プロダクションでCGアーティストとしてゲーム・映像を中心に3DCG制作を行い、2011年頃から、夫婦で3DCG制作を行うユニット「TELYUKA(テルユカ)」というアーティスト名で活動を開始。2013年にフリーランスとして活動をスタートし、映画VFX、CMイベントの映像、フォトリアル表現・人間表現などを経験。また、海外アーティスト連携での作品制作など、幅広い領域で活動。

夫婦で3DCG制作を行うユニット「TELYUKA(テルユカ)」の登壇では、今までのキャリアや制作してきた作品などについて発表しました。「小さい頃からずっと自分の世界観を表現したいという気持ちがあった。」と話すユカ氏は、別の業界にいながらも独学でCGを学び、テルユキ氏がいる会社に転職後、結婚し、二人で3DCG制作の活動をスタートさせました。

自分たちでもハイエンドの表現ができるようになると、海外の映画にでてくるような、ハイディティールなキャラクター制作をしてみたいと思うようになったと言います。「受け身をやめて、より技術や実力を高めて挑戦したいという時期だった。」と当時の心境を振り返りました。

2015年よりつくっているSayaについては「最近では、車業界やいろんな大学、研究者、多数の企業と一緒につくっている。活動の一環で、人間と話せるようになってきたので、イベントのステージ上でリアルタイムに話すという企画が進んでいます。」と紹介。その背景には、新しい技術の組み合わせや、新しいジャンルを生み出すことでCGの価値を高めたいという思いがありました。

新規開発やR&Dを中心としており、モーションキャプチャを撮るためのヘッドマウントのシステムづくりを自ら行うなど、最近の制作の様子をスライドに映しながら事例を紹介。「システムづくりで、あえて自力で施策を重ねた理由はあったりするのでしょうか?」といった参加者からの質問に対しては「モーションキャプチャをとる機械が何百万円もすると知ったときに、まず購入することは無理だなと思いました。」と、テルユキ氏が説明。加えて「調べてみると自分でもつくれるんじゃないかと。始めると止まらない性分なので、形を決めていろいろパーツを探していたら、どんどん面白くなってきて…。僕たちは、モーションキャプチャがメインではないのですが、ああだこうだ言ってつくっていくうちに、夢中になってしまったところが大きいと思います。」と、システムづくりに没頭している胸の内を明かしました。

【LT】CHAPTER : 03 / クレメンス・ベルガー(Clemens Berger)氏

<プロフィール>
リアルタイムグラフィックス研究開発などを担当し、現在は3Dディレクターとして活躍する。様々なタイトルで3Dキャラクター・リードアーティストとして活動しながら「UNITE TOKYO 2019」や「CEDEC 2020」「GDC 2020」「Born Digital Seminar 2021」などにも登壇し、入門講座やセミナーなどにも参加。

最後の登壇者は、3Dディレクターとして活躍するクレメンス・ベルガー氏。「学生時代に『ジェネラリストの時代は終わりました。スペシャリストになれ。ひとつを極めよう』と言われた経験はありませんか?リーダー層を目指す方には、少しネックになるかもしれません。」と参加者に問いかけ、ビジネスの基礎に沿った発表を行いました。

「チームでものづくりをしている以上、課題が出た際にどこのセクションにどのように話せば解決できるかという判断が必要になるため、専門外のことも経験することが大切になってくる」と説明。「クライアントエンジニア、UIアーティストなど、各セクションの役割の「概念」を理解した上で、それぞれのスペシャリストたちのwantとneedを把握する。それが、課題が出た際に、円滑に対処できる方法です。そのような他セクションの状況がよくわかっている『架け橋』となるような人が、3Dのリーダーとして大切にされる」と話しました。

質問コーナーでは「3Dモデラーと3Dリーダー、どちらを極めたいですか?」と「TELYUKA(テルユカ)」テルユキ氏より質問が。クレメンス氏は「個人的には、どちらも魅力があるので『両方』が答えになってしまうのですが、そこの2つも、結局は繋がっているんじゃないかと信じたいです。」と回答しました。「この業界に入った理由でもある、いいものをつくりたい気持ちや、実際にポリゴンを動かして、美しいと思える気持ちをこれからも追いかけたいので、やっぱり2つ…でも、強いていうなら、仕事はディレクターにして、プライベートで表現を極めたいと思います。」と微笑みながらお答えしていました。

パネルトーク

パネルトークでは、「ものづくりで大切にしていること」や「最新の技術の知見をどう集めているのか」などいくつかテーマを用意して、登壇者の方にお話していただきました。本記事では「ものづくりとして大切にしていること」「クリエイターの皆さんに伝えたいこと」をピックアップしてお話いただいた内容をご紹介いたします。

ものづくりとして大切にしていることは?

テルユキ氏:興味を持つことです。ものづくりで一つのことをずっとし続けていると飽きることもありますし、日々変わる技術に挑み続けなければなりません。そのような中で、考えをやめることなく、旬なものについてや「昔こういうのあったな」などのアイディアを引っ張り出して、興味を湧かせ続けることを大切にしています。また「とりあえずやってみよう!」という気持ちも大切にしています。実際にヘッドセットのシステムづくりも、自分たちでできるんじゃないかというところからスタートしていますし、まだこれじゃ満足できない、もっといい方法がないかな?と思って常に調べています。結局、知らないところを見てみたいという好奇心が、興味を持ち続けることの原動力になっていると思います。知らないからこそ「じゃあ、そこに行って見てみたい。どういう景色があるんだろう。」という気持ちで、ものづくりに向き合っています。

森田氏:自分の芯を持ちつつも、常に表現も、使う技術もどんどん変化させ続けることを、重要視しています。CG業界の技術の移り変わりはとても激しいので、新しいものがでると興味がでますし、それをどうにかして自分の表現につなげようと楽しみながら試行錯誤しています。加えて僕の場合は、作家活動の作品があるので、自分の色といったフィルターを通してつくらなくてはならないんです。メンタルや、聴いている音楽など、その時々の自分の中のトレンドのようなものにとても左右される。だからこそ、それをうまく使って「その時の自分にしかつくれないもの」を作り続けることも大切にしています。

クレメンス氏:いつも大切にしていることは、どのようなものつくっても、どのような技術でつくっても、変化が激しい業界で、リアリティを出すことを大事にしています。例えば、なにかしらの作品で見たものだったり、または、なんとなくぼんやりと頭に浮かび上がっているものだけにアイディアを任せてしまうと、既視感がでてきてしまいます。私自身、クリエイティブの感触やストーリーなどで、やっぱり心に響くものは、どの他の作品にもないようなものが多いです。私も、実際に見るもの、実際にあった体験から着想を得て、リアリティを出せるように努めています。

クリエイターの皆さんに伝えたいことを教えて下さい。

テルユキ氏:私自身、クリエイターをやってみて、Sayaをはじめ、ひとつのキャラクターでいろいろな方に関わるきっかけをつくれたことが、すごく良かったと思っています。CGを突き詰めることはもちろん大事だけど、視野を広げられる人たちとの出会いが、ひとつのことをいろいろな方向から極められるきっかけになっています。クリエイターの方には、それを楽しみながらものづくりをしていってほしいなと思います。

森田氏:フィジカルなアート、デジタルアートをつくったりしていますが、レールが見つけられないと彷徨ってしまうんですね。でもそれはそれで、とても楽しいし、彷徨うからこそいろんな人に出会えるし、開拓している感じがしてわくわくします。テルユキさん同様に私も、挑戦する楽しさの一つとして、いろいろな方に出会えることだなと思います。CGを使ってできることが大量に眠っていると思うので、出会いを楽しみながら、ものづくりをできる人が増えるといいと思います。

クレメンス氏:日本のコンテンツが10年前に比べて、桁違いに世界に普及してきたのを感じています。CG業界でいうとアメリカとかカナダなどのCGに目がいってしまいがちですが、日本のコンテンツの素晴らしさ、そこから得られる別の要素にプライドをもって、世界にどんどん発信していってほしいです。

イベントを通して

「3Dスクランブル」という3DCGクリエイター向けのイベントの開催を通し、多くのクリエイターの皆さんと交流しながら、学ぶことができました。今後も「学ぶ意欲」を刺激できるようなイベントを考えていきたいと思います。


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